出来事が私たちに伝えようとしているメッセージや深い意味を知ることのできるバイオグラフィーワーク。それによって長年積み残してきた悲しい思い出を解消し、より自由になることができます。必要なのはペンとノートだけ。

私は認知症の人々と身近に接するうちに、ずっと長い間心に残っている辛い感情を整理することで、認知症になることが避けられるのではないか、と思うようになりました。

人はどうして認知症になるのでしょうか?
歳をとると認知症になるのは避けられないと思ってはいませんか?
周りの高齢者を観察すると、2つのタイプの歳のとり方があるような気がします。

   体は元気だけれども、頭がボケてしまうタイプ
   頭はしゃっきりしているけれども、体に不具合があるタイプ

歳をとると不具合が起きるのは自分では避けられない、どうしようもないこと、と思っていませんか?実はそうではありません。バランスよく歳をとることを心がけることが肝要なのです。

ざっくりと言って、自分イコール体、体だけが大切だ、心のケアや成長は眼中にない生き方をしていると、体は元気で頭がボケてしまう。反対に、自分はぜったいにボケない、人の世話にはならない、まだまだやりたいことがある、体のケアは割と二の次という生き方をしていると、体が悪くなってもやりたいことに固執して周りに強要する、とお見受けします。この2つのタイプに共通していることがあります。それは、

自分が歳をとってやがてこの世を去る、ということを受け入れていない ということです。

シュタイナーの考えでは、「老化」とは体から生命エネルギーが減少して、体が「硬化」していくことで、生命エネルギーの減退は頭から始まるそうです。この変化は早くから始まり、子どもの乳歯が永久歯に生え変わって歯を作る生命力が要らなくなり、思考する力に変わります。

「特に計算や物質界に向けられた思考に専念してきた人々は、
頭脳活動に専念してきたので、必然的に硬化傾向が強まります。」
(『シュタイナーの老年学 - 老いることの秘密』丹羽敏雄、涼風書林、2013年)

すべての人がそうとは限りませんが、医者や科学者だった高齢者を認知症のお年寄りのケアホームでよく見かけます。物質主義、つまり自分イコール体だという考えが、頭の硬化を促進しています。

では認知症とはどのような状態なのでしょうか?
認知症になって記憶や認知力が衰えても習慣と感情が残るようです。ある高齢者は、長い間「不安」を抱えていました。不安はその人が幼いときに母親が亡くなったころから始まっています。戦争の体験もありました。集団疎開先で先生が「えこひいき」をして自分に食べ物をくれなかった悲しい体験もありました。自分は「見捨てられた」「飢えた」「自分はとるに足らない存在」「また捨てられるんじゃないか、食べ物がなくなるんじゃないか」、その方はそうした不安を抱えたまま、ほっておいて、心や感情とは存在しないもの、として生きてきました。しかし、かかえた不安はずっと人生に影響を与え続けます。押さえつけていたので、大変なエネルギーを浪費したに違いありません。若いときから、よく独り言を大声で言っていました。80代で認知症になっても不安は存在し続けます。その方は老人ホームに入居した今、持病はなく、毎食よく食べ体は元気ですが、「誰かが自分のお金を奪っている」「なにかをしたけれども、自分は大失敗をしてしまった」「すべてはダメになってしまった」などの現実にはない妄想のストーリーを毎日生きています。ご苦労なことです。ほっておいた「不安」が、妄想を引き起こしているのです。その人は長い時間を不安と疑いで頭をいっぱいにして過ごすことを習慣としてきたのです。

私たちは、なるべく早く抱え込んだ悲しい体験を整理して、自分の感情を育てなければなりません。

それでは感情を育てるためには、どのようにしたらいいのでしょうか?

 ・まず、自分の感情とつながること
これを意外と難しいと感じる人がいるかもしれません。感情を無視する習慣ができているからです。

 ・好き!わくわく感を育てる
とくに「好き!」「素敵!」という感情は無視されがちなのは不思議なことです。逆にキライ、憎しみ、ムカツク、私の方が上、などのネガティブな感情の方が私たちを支配する力が大きいようです。

 ・できるだけたくさんの機会、長い時間、涙が出るほど深く感動する

 ・人を信じる、自分を信じる
「信じる」という感情はどうやら高等なようで、「恐怖」や「疑い」の感情が信じる力を奪いがちです。人を信じるためにはまず自分を信じる力を養わなければなりません。自分を信じていないのに、強い他者に頼るのは盲信です。

 ・思考に作用するクスリはなるべく摂らない
残念ながら多くの施設ではクスリを高齢者の行動を管理するために処方しています。処方箋薬の服用は専門家とよく相談して決定してください。思考に作用するクスリには違法ドラッグも含まれます。お酒も思考に作用します。ほどほどに。

 ・習慣から自由になることを心がける
そのためには自分の習慣を見極める必要があります。

 ・成長しつづける、あきらめない
体の老化がすべての終わりではありません。40代50代60代は心の成長の季節なのです。意識的に生きれば、すばらしい円熟期が訪れます。

すべては自分次第、必要なのは、自分との対話なのです。
Back to Top